思いを繋げた日〜あの日の「いのちをいただく作法」

〜 牛を飼うこと、と畜すること、お肉や内臓を売ること、料理すること、食べること・・・ 牛の「いのちをいただく」過程には、それぞれの役割を担う人がおり、思いのこもった作法があります。この業界のプロの心と技にふれて、お肉をいただくことの意味を味わって下さい 〜

2年前の今日8月2日、こんな出だしで始まる食育イベントが京都でありました。

「人とどうぶつとの関わり」という講義から

当時勤務していた 専門学校で受け持っていた講義のひとつに「人とどうぶつとの関わり」という科目がありました。

家庭動物、野生動物、展示動物、産業動物、実験動物・・・私たちの周りにいるどうぶつたちと私たちとはどのように繋がり作用し合っているのかを考えてみようというこの講義の最中には、学生達のどうぶつに対する「可哀想・・・」という表現をよく耳にすることがありました。
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どうぶつたちのことが大好きで入学してくる人たちだから、動物実験やと畜のことは敢えて避けて通りたい気持ちはよくわかります。

ですが、いちばん身近などうぶつって?と考えた時に気がつくのは、毎日のように口にしている牛や豚や鷄たちの存在のこと。

これから人間とどうぶつたちとの間に立って仕事をしていく人として、ペットたちだけでなく、あらゆるどうぶつたちのいのちに対して目をそらさないで、偏らない正しい知識とどうぶつ好きとしてのあたたかい眼差しを忘れずに併せ持っていてほしいと思いながらの講義でした。
現場の苦労や思いを知ることで、経済や政治の問題にまで少しであっても関心を向けることのできる大人にもなっていってほしいという願いもありました。

そこで、「産業動物とわたしたち」の項目の時に、私自身も観てみたかった「小さな家族経営の屠場」を扱うドキュメンタリー映画「ある精肉店のはなし」の上映と酪農家さんから直接お話を聞く特別講義とを企画してみることにしたのです。

自ら牛を育て屠畜して肉を販売する今はないスタイルの精肉店のドキュメンタリー映画
私が勤務していた専門学校で、特別講義をして下さる静子ママ(帽子の方)と娘のちひろさん(左)とスタッフのすずちゃん(なんとこの専門学校の卒業生)

「ある精肉店のはなし」の詳細については別の機会に譲るとして、酪農家さんの生の声を聞くと題してお招きした佐賀県太良町にある酪農教育ファーム「風の牧場」の「静子ママ」こと樋口静子さんが、お話の最後に読み聞かせて下さった紙芝居がありました。

「いのちをいただく」みいちゃんがお肉になる日

牛のみいちゃんを育てたおじいちゃんと女の子、食肉加工センターで働く坂本さんと息子のしのぶ君、それぞれがいのちに思いを馳せながら、「みいちゃんが牛肉になる日」を迎える実話(amazonより)を描いたお話です。

「いのちをいただく作法」には愛がある

京都で開かれたのは、そのお話の著者である内田美智子さんと紙しばいの主人公の「坂本さん」こと坂本義喜さん、そしてドキュメンタリー映画「ある精肉店のはなし」の主人公北出新司さんの3人が一堂に会し、いのちについて語り合うというたいへん貴重で興味深いイベントでした。

おふたりとも、いのちのあるどうぶつがお肉になる現場に携わって来られたプロ。クロストークでは、映画や紙芝居よりもはるかにリアルにその変容の儀式の厳かさが伝わってきて、思わず鳥肌が立ちました。

いのちをいただく現場には高度な技術とともにどうぶつたちへの愛がある。

そのとき私は坂本さんのお話を聞きながら、その穏やかな笑顔を眺めながら、いつか坂本さんと静子ママを引き合わせたい、いや必ず引き合わせようと心に決めました。

トークが終わり、おふたりによる肉捌きの実演も済んで、始まった懇親会の席で、肉捌き実演用の阿蘇の赤牛(枝肉になったものです)を肥育された東海大学農学部(九州キャンパス)の先生がおっしゃった言葉が今でも忘れられません。

「出荷の時には牛たちを手塩にかけて育てた学生たちと笑顔で送り出すことに決めています。積み込みのトラック作業をする方には牛たちを優しく扱ってもらえるよう、と畜現場では牛たちが苦しまないように計らってもらえるよう、解体の時はできるだけ無駄肉が出ないようにうまく捌いてもらえるよう、肉となって売られるお店では売れ残りが出ないよう、そして食べる時には美味しく調理して残さずに食べてやってもらえるよう、どうかよろしくお願いします」

恥ずかしながら、専門学校に転職してこの講義を受け持つまで、獣医師でありながら同じ獣医師仲間のフィールドでもある畜産、ことに屠畜の事にはほとんど関心を寄せていませんでした。

北出さんや坂本さん、そして静子さんに出会ってからは、 獣医師として、いやむしろ台所に立ち食卓を守る生活者として、 「育てる人」「食べる人」だけでなくその間に立ち「いのちの変容を見届ける人」の存在をその思いを繋いで届けられる人でありたいと考えるようになりました。

思いを繋いだその後のはなし

実は、この懇親会のときに、私は思いきって坂本さんに声をかけました。
「いのちをいただく」の紙芝居を自身のファームで子どもたちにずっと伝え続けている酪農家さんがいるのでいつか会ってもらいたい。実在する坂本さんに会えたら、彼女にとってどんなにうれしく励みになるだろう。そんなことをお伝えしました。

それからおよそ半年後、坂本さんとわたしと静子さんの都合が奇跡的に合って、坂本さんが暮らす熊本市で感動の出会いを取り持つことができたのでした。

それ以来、坂本さんは風の牧場との交流を続けておられます。

風の牧場へやって来た子どもたちが牛たちに出会い、静子さんが読み聞かせる「いのちをいただく」の紙しばいを見聴きし、そして坂本さんの思いを直に聴いて、美味しくありがたくお肉を食べてくれるようになる日が来るのが楽しみです。

投稿者プロフィール

清水かおり
清水 かおり
料理教室「茶飯事会」主宰。食卓カウンセラー。ときどき、獣医師。

「ていねいな暮らしはちょっぴりていねいな日常茶飯事から」をコンセプトに、「おとなの飯事(ままごと)〜四季折々のばらずしの会」や季節のごはん教室、出張ごはん、など、誰かの食卓をシアワセにするためのお料理活動を展開中。