実家のおせちの思い出は?

おせち料理が、日頃忙しい主婦がお正月の三が日ゆっくり休むためのお料理だなんて嘘っぱちだと思うのです。

主婦にとっての三が日は、帰省してくる家族や集まる親戚のために、いつも以上に立ち働くそれはもう忙しくて目の回る日々。

年末年始のニュースでお決まりの空港や駅での帰省客へのインタビューでは、「実家に帰って美味しいものを食べてゆっくりしてきます」と答える人がほとんどですが、そんな受け答えを聞くたびに、裏で昼夜休みなくせっせと働くお母さんたちの姿が思い浮かびます。

ですが、今年の年末年始は帰省を取りやめる人がさすがに多くなりそうで、テレビに映る新幹線の駅の人影はまばらです。

実家のお母さんたちは、静かなお正月、楽になるからうれしいでしょうか? 

いいえ、きっと例年の忙しさこそがかけがえのない愛おしいものなのだということをあらためてひしひしと感じておられることと思います。

わたしもそのひとりです。

さて、そんな実家のおせちが食べられないと思うと、その味が恋しくありませんか?

いつもならもう飽きていたお煮しめの味も、食べられないとなると妙に食べたくなる…。

実家のおせちには、そんな味がたくさん盛りつけられているように思います。

あなたのお好きな実家のおせちの味はなんですか?

わたしの母が作っていたおせちで真っ先に思い出すのは、鰤の照焼とうずら卵で作った柿うずらです。

とりわけ、その柿うずらはわたしのいちばんのお気に入りでした。

橙色に染めたうずらのゆで卵に昆布で作ったへたを爪楊枝で留め付けたもの。ただのうずら卵なのですが、当時のおせちとしては、ダントツにかわいいビジュアル。

仕事も持っていて年末ぎりぎりまで忙しかった母が、それでもやめずにわたしのために毎年作り続けてくれていた柿うずらのちょっと仕上げの雑なその愛らしい姿が今でも妙に懐かしいのです。

他にも色々ありましたが、もうすっかり忘れてしまいました。

考えてみれば、実家で暮らしているときにはおせち作りのお手伝いをまともにしたことがありませんでした。

せいぜい買い出しにつきあうくらい。

高校生のときに、ゆで卵の殻をむいたり、例の柿うずらの昆布のヘタをハサミで切ったり、と、まるで小学生のような簡単なお手伝いをした程度。

大学のときは、帰省しても大晦日まで地元の友達と遊び歩いていたし、逆に社会人になってからは、大晦日の日付が(年が)変わるころに仕事が終わって帰宅したり。

冒頭に挙げた空港でインタビューを受ける帰省客のように、わたしも自分がのんびり休むことしか考えていなくて、その間に母が忙しく働いていることなどあまり気に留めていなかったのかもしれません。

わたしにとっては、自分の大切なお正月休み。 

でも、きっと母にとっては、みんなの大事なお正月休み。 

今なら、母のその気持がわがこととしてよくわかります。

ああ、もっとおせち作りのお手伝いをしておくんだった、もっと色々味わっておくんだった。

今年帰省できないで、実家のおせちを懐かしくおもうみなさん、今度はぜひお母さんに作り方を教わってみてください。

わたしもそろそろ娘にわたしのおせちの味を伝授しておこうかな。

投稿者プロフィール

清水かおり
清水 かおり
料理教室「茶飯事会」主宰。食卓カウンセラー。ときどき、獣医師。

「ていねいな暮らしはちょっぴりていねいな日常茶飯事から」をコンセプトに、「おとなの飯事(ままごと)〜四季折々のばらずしの会」や季節のごはん教室、出張ごはん、など、誰かの食卓をシアワセにするためのお料理活動を展開中。

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